静かな朝だった。
部屋の隅にまだ夜の影が残っていて、
カーテン越しの光が、ゆっくりと輪郭を浮かび上がらせていく。
少し冷えた空気の中で、台所に立つ。
湯を沸かす音が響く間に、
冷凍していたごはんを温め、
小さな鍋に出汁を注ぐ。
豆腐と小松菜を入れて、火をかける。
味噌を少しずつ溶きながら、
鍋の中の湯気が静かに上がっていくのを見ていた。
温まったごはんを茶碗によそい、
焼き海苔をちぎって添える。
梅干しを小皿に。
湯呑みに白湯を注ぐと、
それだけで朝の支度が整った気がした。
目の前の器が並ぶと、
部屋の中の空気まで整ってくる気がする。
味噌汁をひと口。
やわらかく火が入った小松菜の歯ざわりと、
豆腐の温度がちょうどよかった。
ごはんの温かさに、
体が少しずつ目を覚ましていく。
海苔をのせて、梅干しを添えて、
ゆっくりと食べ進めていく。
何も急ぐことはなかった。
食器を洗い、
拭いて、棚に戻す。
音も少なく、作業そのものが静かだった。
洗面台の前に立ち、
歯ブラシを手に取る。
スイッチを入れると、
低く小さな振動音が、手元にそっと伝わる。
大きく動かさなくても、
自然と歯の表面をなぞるように磨かれていく感覚。
鏡を見ることもなく、
ただ静かに数分。
いつもと同じ動作を、いつもと同じ流れで。
磨き終えたとき、
手に残る軽い振動が消えていた。
そこには何も残らず、
ただ朝が続いていた。
歯ブラシをすすぎ、
洗面台の水滴を軽く拭く。
動作ひとつひとつが整っていくと、
頭の中も自然と整ってくる。
台所と洗面台、
どちらにも余計なものはなく、
どこか透明な感じがした。
外はもう、ずいぶん明るくなっていた。
カーテンのすき間から差し込む光に、
ようやく色が混ざり始めている。
朝食と歯磨き、
それぞれの時間に、
どれも無理がなかった。
何かを終えたというより、
静かに始まっていく感覚だけが、そこにあった。
▼しずかな時間に馴染むもの▼



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