朝、少しだけ早く目が覚めた。
天気はよく、カーテン越しに差し込む光がやわらかい。
こういう日は、自然と体が起きたがる。
洗面所で顔を洗い、口をすすぐ。まだ眠気は残っていたけれど、ゆっくり目が覚めていく感じが心地よかった。
台所で麦茶を一杯注ぐ。
昨晩、ヤカンで煮出して冷蔵庫で冷やしておいたものだ。
グラスに入れて飲むと、ひんやりとした喉ごしに気持ちがしゃんとする。
冷蔵庫を開けて、残っていたキャベツをざくざく刻み、簡単なサラダをつける。
食パンはトースターで軽く焼いて、焼き色がついたところで取り出した。
特別なものはないけれど、こういう朝ごはんがちょうどいい。
ひと口、ふた口とパンをかじりながら、静かな時間を味わう。
今日は予定もない。
それだけで、どこか心が軽くなった。
食器を流しに置いて、ふとアイロンをかけようと思った。
洗濯済みのシャツが、きれいに干されてはいたけれど、襟元や袖口にわずかなしわが残っている。
そういうのを見つけると、少し手をかけたくなる。
棚の奥からスチームアイロンを取り出す。
タンクに水を入れて、コードを差し込むと、小さな音とともに湯気が立ちのぼる。
その音さえ、今日は心地よく感じた。
アイロン台の上にシャツを置き、丁寧に位置を整える。
まずは背中から。
スチームボタンを押すと、ふわりと蒸気が広がり、生地が柔らかくなる。
アイロンを滑らせるたび、しわが消えていき、布が元のかたちを取り戻していく。
ただそれだけの作業なのに、集中すると、時間の感覚が少しだけ遠のく。
手のひらに伝わる熱や、湯気の湿り気。
シャツの手触りや、滑らかになっていく感覚に、気持ちがすっと整っていく。
袖や襟はとくに丁寧に。
アイロンの先端を使って角を出すようにかけていくと、全体の印象が引き締まって見える。
しわのないシャツというより、手をかけた服という感じが好きだ。
終わったシャツは、そのままハンガーにかけて、風通しのいい場所に吊るす。
部屋の中に残る、わずかに温かい蒸気のにおい。
それを感じながら、もう一度麦茶を注いで飲む。
ひんやりとしたグラスが手に馴染み、汗ばみ始めた肌にちょうどよかった。
たまにこうして、手を動かして暮らしを整える時間を持つと、気持ちが落ち着く。
慌ただしい日々の中でも、何かを急がずに過ごす時間があると、それだけでリズムが変わってくる気がする。
しわが伸びたシャツを見て、どこかで少し背筋を伸ばして歩いてみようかと思った。
何をするでもない日でも、こうした穏やかな始まりがあるだけで、少しだけ気分が変わる。
そんなことを思う朝だった。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
ちょっとしたしわを伸ばすだけで、暮らしのリズムが静かに整っていく気がします。
スチームの音や手の動きに集中する時間が、思いのほか心地よいひとときになってくれます。

コメントを残す