気温はそれほど高くないのに、じんわりと湿気がまとわりつく。
晴れているのに、空気の輪郭がぼやけていて、肌にも空気にも、どこかしら梅雨の気配が混じっているような午前中。
台所に立つには、少し気が重かった。
火を使うと、余計に部屋がこもってしまいそうな気がして。
でも何か、温かいものが食べたい。野菜をたっぷり入れて、汁気のあるものを、ゆっくりと。
今日は、キッチンではなく、窓辺で作ることにした。
カーテンを開け、窓を少しだけ開くと、気持ちのいい風が静かに入り込んでくる。
外の空気がふわっと部屋の中に流れ込んで、空気ごと新しくなったような気がした。
その風が届く場所に、低めのローテーブルを移動させ、軽く拭く。
IHクッキングヒーターを置いて、その上に小さめの鍋。今日はここが、キッチンの代わり。
玉ねぎを薄くスライスして、キャベツもざくざくと切る。
人参は少し細めにしておいた方が火が通りやすい。
鶏のひき肉が少しだけ残っていたので、それも使うことにした。酒と塩、しょうがのすりおろしを混ぜて、軽く練る。
これだけで、スープのベースは十分。
あとは、味噌を少し、昆布だしと水を鍋に入れて、ゆっくりと火を入れていく。
スイッチを押すと、ヒーターが静かに立ち上がる。
キッチンの火とは違って、音も匂いも控えめで、今自分が料理をしていることを忘れそうになるほど。
沸いてきたところで、野菜を加え、肉団子を一口大にして落とす。
一つずつ沈めるたび、鍋の中が少しずつにぎやかになっていく。
沸騰を避けるように、火力を少しだけ下げる。
IHは加減がしやすく、数字で管理できるから、思った通りの温度を保ちやすい。
途中でアクを取ることも忘れずに。
しばらくすると、野菜が柔らかくなって、肉からは旨味がにじみ出てくる。
味噌を少しずつ溶きながら、全体を整える。
部屋の空気がほんのり味噌の香りに変わっていく。
煮込んでいる間に、横でおにぎりをにぎる。
梅干しと、塩昆布の二つだけ。ごく簡単なもの。
陶器の小皿を用意して、湯飲みに番茶を注いでおく。
スープが出来上がるころには、風が少し強くなっていて、レースのカーテンが揺れていた。
外からの光がテーブルにやわらかく差し込んで、鍋の中を静かに照らしている。
こういう日に、火を使わずに調理ができることのありがたさを実感する。
鍋敷きを敷いて、スープ鍋ごとテーブルに置く。
ひとり鍋のような形。けれど、準備から完成までが、すべて目の前で完結しているということが、心地よい。
椀によそって、ひと口。
味噌のまろやかさの中に、鶏肉のうまみが溶け込んでいる。
キャベツの甘さがじんわりと広がって、玉ねぎはほとんどとろけかけていた。
人参は柔らかくなりすぎず、ちょうどいい歯ざわりを残している。
おにぎりと一緒に交互に食べると、体の奥まで温まっていくのが分かる。
さっきまで「火を使いたくない」と思っていたのに、こうしてスープを口にしていると、それすらも穏やかな感覚に変わっていた。
ゆっくりと食べながら、窓の外の葉が揺れるのを眺める。
テレビも音楽もつけずに過ごす昼食は、思った以上に静かで、満ちている。
食べ終わったら、鍋の中に残ったスープを少し冷まして、保存袋に移しておく。
夜、小腹がすいたら、もう一度温めなおすつもりだ。
IHヒーターのスイッチを切り、コードをまとめる。
使ったあとも、熱源が残らないのですぐに片づけられるところが助かる。
テーブルを拭いて、鍋を洗って、昼の時間がひと区切り。
道具は、生活の気分に合わせて使い分けるのがいい。
卓上IHは、ただ便利というよりも、“構えずに料理ができる”という点で心が軽くなる。
火を使うことが億劫な日。台所に立ちたくない日。
でも、しっかりしたものを食べたいと思える日。
そんなときに、このヒーターは自然に手が伸びる存在になってくれる。
自炊をしようと思うと、なにかとハードルが上がることもある。
でも、ひとつの鍋とひとつの熱源だけで、じゅうぶん満たされる食卓がつくれる。
それを知ってから、料理はもう少し気楽なものになった。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
卓上IHクッキングヒーター
火を使いたくない日も、食卓でそのまま調理ができるのがうれしい。
軽くて音も静か。ひとつあると、料理の気分が変わる道具です。

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