朝、窓を開けると空気が少しやわらかくなっていた。
ひんやりとした感じはもう薄くなって、
かわりにじんわりと湿気を含んだ匂いが混じっている。
季節がゆっくりと変わっていくのがわかる。
今日は昼にかけて気温が上がるという予報だった。
こういう日は、朝のうちに冷たい飲みものを仕込んでおきたくなる。
慌ただしく作るのではなく、ゆっくりと準備しておくと、
それだけで午後の気分が違ってくる。
台所の棚から グラスのピッチャー を取り出す。
透明なガラスの器。
薄すぎず、適度な厚みがあって、
光が入ると少しだけ揺らめく感じがある。
水やお茶を入れるとき、この揺らぎを見るのが好きだ。
今日はアイスティーを作ろうと思っていた。
ほんのりと渋みのある紅茶を冷たくして、
そのまま氷を入れずに飲むのがいい。
氷を入れればすぐ冷たくなるけれど、
時間をかけて冷やした方が、味がまるくなる。
湯を沸かしている間に茶葉を準備する。
今日はセイロンティーを使う。
華やかすぎず、どちらかといえば穏やかな香りのもの。
大きめのティーポットに茶葉を入れ、
沸いたお湯を注ぐ。
蒸らしている間にピッチャーを洗っておく。
すこし冷たい水でさっとすすぎ、布巾で軽く拭く。
ガラスの表面がさらりとして、持ったときに気持ちがいい。
こういう小さな手順が、朝の時間を整えてくれる。
茶葉の香りが立ちのぼってきた。
時間を見て、ゆっくりと濾す。
ポットからピッチャーへ、
高すぎない位置から静かに注いでいく。
ガラスに紅茶が満ちていく様子は、見ていてなんだか落ち着く。
まだ熱いので、このまましばらく冷ます。
急いで冷やすよりも、
自然に温度が下がってから冷蔵庫に入れる方が香りが残りやすい。
ピッチャーを窓辺に置いて、
風にあたりながら冷めるのを待つ。
外からは鳥の声が聞こえる。
ときどき葉の揺れる音が混じって、部屋の中が静かに整っていく。
頃合いを見て、冷蔵庫へ。
棚の中にすっと収まるサイズ感もちょうどいい。
冷たくなったころに飲むのが楽しみになる。
昼前に少し早めの食事を済ませて、
午後のゆっくりした時間。
本を読むでもなく、窓を眺めたりしながら過ごす。
冷蔵庫からピッチャーを取り出す。
手に持つと、外側がすこし冷たくなっていて、
中の紅茶はきれいな琥珀色。
ガラス越しに見える色が、朝とはまた違って映る。
グラスに注ぐときの音も好きだ。
細く、静かに流れる音が台所に響く。
氷は入れない。
そのままの温度と味を楽しむ。
ひと口飲むと、口の中にやわらかな渋みと香りが広がる。
冷たさが喉をすっと通って、
体の中にひと筋の涼しさが生まれる。
何気ない飲みものだけれど、
朝のうちに仕込んでおいたことで、
この時間が少しだけ特別なものに感じられる。
急いで作ったのでは出ない味と、気持ちの整い方。
グラスのピッチャーは見た目がすっきりしていて、
台所の中でも静かにそこにある感じがする。
こうしてひとつ役割を果たしてくれるだけで、
暮らしの流れがやわらかくなる気がする。
飲み終わったあとも、
ピッチャーはまた冷蔵庫に戻しておく。
残った分は夕方に飲んでもいいし、
夜に食事と一緒に楽しんでもいい。
何度かに分けて味わえるのもいいところだ。
こういう静かな手順があるだけで、
日常がほんのすこし整って感じられる。
明日もまた、朝のうちに仕込もうか。
そんなふうに思いながら、
グラスをそっと戻した。
▼ しずかな暮らしに馴染むもの
グラスのピッチャー
冷たいものを静かに仕込んでおける道具。
透明なガラスの中に、涼しさと時間がゆっくりと積もっていきます。

▼しずかな時間に馴染むもの▼
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