昼前、台所の窓からやわらかな光が入っていた。
曇り空ではあるけれど、雨は降っておらず、ひんやりとした空気が心地いい。
今日は家で過ごすと決めていた。
買い物にも行かず、静かな時間を味わう日。
ふと、何か甘いものが食べたくなった。
焼き菓子というより、冷たくてなめらかなもの。
レアチーズケーキを作ろうと思った。
ホーローバットがちょうどいい。
型に紙を敷く必要もなく、仕込んでそのまま冷蔵庫に入れられる。
何より、白いホーローの質感が好きだ。
台所の棚からバットを取り出し、さっと洗って水気を拭く。
牛乳とクリームチーズ、生クリーム、ヨーグルト、砂糖、ゼラチンを用意する。
レモンも少し絞ろう。さっぱりと仕上がる。
クリームチーズは室温に戻しておいたので、やわらかい。
ボウルに入れて、泡立て器でなめらかになるまで混ぜる。
砂糖を加えてさらに混ぜ、ヨーグルトと牛乳を少しずつ加える。
小鍋でゼラチンを溶かし、少し冷ましてからボウルに加える。
全体がつややかにまとまったころ、最後に生クリームを加えてふんわりと混ぜる。
レモンのしぼり汁も加えて、さわやかな香りが立った。
バットに流し入れる。
なめらかな液面が、静かに広がっていく。
表面に浮いた気泡はスプーンでそっと取り除く。
冷蔵庫にそっと入れて、数時間冷やす。
今夜の楽しみがひとつできた。
こうして仕込みをしておくと、そのあとの時間まで少し豊かになる気がする。
夕方。
あたりが薄暗くなってきた。
灯りをつけて、夜ごはんの準備にとりかかる。
今日は和食にしよう。
冷蔵庫に塩鮭があったので、それを焼くことにする。
ごはんは土鍋で炊く。
米を研いで水に浸しておき、味噌汁の準備をする。
豆腐とわかめ、ねぎのシンプルなもの。
出汁の香りが台所にふんわりと広がっていく。
副菜は、小松菜のおひたしを用意した。
さっと茹でて、水気をしぼり、だし醤油をかける。
土鍋のふたを開けると、つやつやとしたごはんが炊き上がっていた。
塩鮭もちょうどよい焼き色がついた。
テーブルに器を並べる。
ごはん、味噌汁、塩鮭、小松菜のおひたし。
素朴だけれど、落ち着く食卓だ。
箸をとり、まずは味噌汁をひと口。
出汁のやさしい味が、疲れた体にしみる。
ごはんと鮭の塩気がちょうどよく、箸がすすむ。
静かな夜に、こうしてしっかりとごはんを食べると、不思議と心が落ち着いてくる。
何も急がず、ただひと口ずつ味わう。
食事を終えて、食器を洗い、台所を整える。
ふと冷蔵庫の中のバットのことを思い出した。
そろそろいい頃合いだろうか。
冷蔵庫を開けると、白いバットの中で、レアチーズケーキがきれいに固まっていた。
表面はなめらかで、少しつやがある。
これを見るだけでも、少しうれしくなる。
小さめのナイフで端を切り分け、皿にそっとのせる。
クリーム色のなめらかな断面がきれいだ。
テーブルに運び、お茶をいれる。
温かいほうじ茶にした。甘いものには、こういうやわらかな香ばしさがよく合う。
スプーンを入れると、ぷるんとした感触が返ってきた。
ひと口すくって口に運ぶ。
やわらかく、なめらかな口あたり。
レモンのさわやかな酸味がきいていて、甘さは控えめ。
食後の体にちょうどよい軽さだ。
夜の静けさのなかで、こうして甘いものをゆっくり食べる時間が好きだ。
昼のうちに仕込んでおいたものが、夜になってこうして楽しめる。
その流れが、なんとも心地よい。
また今度は違う味にしてみようか。
ベリーのソースを添えてもいいし、ココアを加えてもおいしそうだ。
そんなことを考えながら、もうひと口。
ほうじ茶の香りとともに、夜の時間が静かに流れていく。
こうして仕込んでおいた甘いものが、夜のひとときを少し豊かにしてくれる。
バットは、その時間をつくる道具のひとつだ。
またこんなふうに、ゆっくりと仕込んでおこう。
そう思いながら、最後のひと口を味わった。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
ホーローバットは、レアチーズケーキのような冷たいお菓子を作るときにもとても便利です。
仕込んで冷やすあいだの時間も楽しめて、食卓に出すときの整った佇まいもうれしい道具ですね。

コメントを残す