目が覚めたのは、思っていたよりも早い時間だった。
窓の外はまだ明るくなく、空はくすんだグレー。
雨ではないけれど、どこかしっとりとした空気が漂っている。
もう一度寝てもよかったけれど、目覚めてすぐの気分が悪くなかったから、そのまま起きることにした。
ゆっくりと起き上がり、カーテンを少しだけ開ける。
朝というよりも、夜が薄まったような景色が広がっていた。
こういう静かな朝は、コーヒーを淹れたくなる。
いつもは急ぎ足で準備をして、味もよくわからないまま飲んでしまうこともある。
けれど今日は違う。
時間があるというだけで、気持ちの向きが変わる。
流しを軽く片づけて、器具を並べていく。
ドリッパー、フィルター、ミル、そしてサーバー。
どれも見慣れたものばかりだけれど、ひとつずつ手に取ると、少しだけ背筋が伸びる。
サーバーはガラス製のものを使っている。
薄すぎず厚すぎず、持ったときにしっくりとくる重さ。
注ぎ口が美しく切り出されていて、注ぐときに無駄な音がしない。
何より、抽出されていくコーヒーが目に見えるというのが、ガラスの魅力だと思う。
豆を挽く音が、まだ静かな部屋に響く。
ごりごりと、少し鈍いリズムで続くその音は、目覚めかけの頭に心地よい。
お湯を沸かす間、椅子に腰を下ろして、ミルから立ち上る香りを感じる。
朝の香り、というのは、たぶんこういうもののことを言うのだと思う。
湯気が上がりはじめたら、サーバーにドリッパーをのせて、フィルターをセットする。
粉を入れ、少しだけお湯を注ぐ。
最初の蒸らし。
粉がふわりと膨らんで、香りがふっと強くなる。
その瞬間、世界がすこし輪郭を持ちはじめる。
しずかに、少しずつお湯を注いでいく。
細い線のようにお湯が落ちて、ドリッパーの底からコーヒーが落ちていく。
それが透明なガラスのサーバーに溜まっていく様子を見るのが、ひそかな楽しみになっている。
少しずつ、少しずつ、濃い色の液体が重なっていく。
陽が差してきたら、その色が光を含んで、なんとも言えない深みを帯びる。
音もいい。
抽出のときに、コポコポというような小さな音が響く。
これがまた、耳に心地よい。
最後まで淹れ終わったとき、サーバーの中には、ぴったり二杯分のコーヒーが溜まっている。
そのガラス越しに見える濃い色が、朝をはっきりとさせてくれる。
お気に入りのマグカップに注ぐ。
注ぎ口からすっと流れる液体は、迷いがない。
勢いもなく、濁りもなく、ただ静かに落ちていく。
少し時間を置いて、口をつける。
舌の上に広がる温度と香り。
すぐに飲み込まず、ゆっくり味わう。
静かな時間に、コーヒーを淹れる。
ただそれだけのことなのに、
なんだか一日がすこし大切になる。
特別なデザインではないけれど、毎日をちょっとだけ美しくしてくれる道具だ。
洗いやすく、持ちやすく、そして見ていて気持ちがいい。
道具というのは、機能だけではなく、佇まいも大事だと思う。
このガラスのサーバーは、それをよくわかっているような顔をしている。
コーヒーを飲み終えたあと、光がもう少し強くなってきた。
部屋の中にも影ができて、朝がちゃんと始まったことを知らせている。
サーバーを洗い、しっかりと水気を切って、いつもの棚に戻す。
また明日も使いたいと思えることが、気持ちを整えてくれる。
今日の朝は、ただコーヒーを淹れただけだった。
でも、その「だけ」の時間がとても豊かだった。
▼ しずかな時間に馴染むもの
抽出の時間を目で味わえる、静かな朝にぴったりの器です。
注ぐ音や香りまで、ゆっくりと整えてくれます。

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