雨の午後

今日は朝からずっと雨が降っていた。
窓の外は淡い灰色に染まり、
遠くの建物も少しぼやけて見えた。
街の音も静かで、どこか遠くに押しやられたような、
不思議な静けさが部屋の中にも満ちていた。

午前中は少しだけ読書をした。
内容に没頭するというよりは、
文字のリズムをなぞっていくような読み方だった。
雨の音が背景に流れているだけで、
いつもの読書も、少し違った趣を帯びる。

本を閉じると、少しだけお腹がすいていることに気づいた。
でも、わざわざ買い物に出かける気にはならず、
冷蔵庫にあるもので何か作ってみることにした。

中には、じゃがいも、玉ねぎ、ピーマン、そして少しの鶏肉。
特別なものは何もなかったけれど、
雨の日にはこれくらいの素材でちょうどいい。

野菜を切る音が、雨音と重なって心地よく響く。
いつもより静かな台所は、
まるで外の天気に呼吸を合わせているかのようだった。

テーブルの上に、小ぶりのホットプレートを出した。
コンロを使うほどでもないとき、
このサイズ感がちょうどいい。
プレートに油をひいて加熱すると、
静かなジジッという音が聞こえた。
派手ではないけれど、しっかりと火が入っている音だった。

まずは鶏肉を軽く焼いて、
そこに切った野菜を加えて蒸し焼きにする。
蓋をしてしばらく置いていると、
食材の混ざった香りが部屋にふわっと広がって、
雨の肌寒さも少し和らいだような気がした。

そのあいだに、だしをとって、
薄味のスープも作っておく。
刻んだねぎを散らして火を止める。
湯気の立つ鍋の蓋を閉じると、
しんとした台所に、余熱の音が静かに響いた。

やがてホットプレートの中から
じんわりと焦げ目のついた野菜の香りがして、
頃合いを見て火を止める。
鶏肉はやわらかく、野菜はしっとり。
じゃがいもはほどよく崩れていて、
それだけで食欲をそそった。

器に盛りつけてテーブルに並べる。
雨の日の午後にふさわしい、
温かくて素朴な食卓だった。

一口ずつ、ゆっくりと味わうように食べる。
口の中でほくほくとほどけるじゃがいもと、
軽く焦げ目のついたピーマンの香ばしさ。
何か特別な調味料を使ったわけではないのに、
しみじみとした味わいが広がっていく。

窓の外の景色はほとんど変わっていなかったけれど、
部屋の中だけは確かに、
さっきよりも温かく、落ち着いていた。

食べ終えた器をゆっくりと片づけ、
ふきんでひとつひとつ水気を拭く。
何かを急ぐわけでもなく、
ただ目の前にあることを、ひとつずつ丁寧にこなしていく。

片づけが終わったころ、窓の外は少しだけ明るくなっていた。
雨はまだ降り続いていたけれど、
光がにじむように部屋の中に入ってきて、
壁の影がやわらかくなっていた。

もう一度本を手に取って、
さっきより少しだけ集中して読み進める。
内容に引き込まれていくというよりは、
その静かな時間のなかに、自然と本があるという感覚だった。

食事をして、片づけをして、
それでもまだ午後の時間がたっぷり残っている。
雨の日にしか味わえない、
緩やかな時間の流れがそこにはあった。

▼しずかな時間に馴染むもの▼

【Amazon】Amazonで見る
【楽天】楽天で見る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA