朝から陽ざしが強かった。
カーテン越しの光がじんわりと部屋を照らし、床の木目に淡く影を落としている。
エアコンをつけるにはまだ早い気がして、窓を開けて風を入れた。
風はあるのに、湿気を含んでいて、どこかまとわりつくような空気。
そんな日の朝は、いつもより動きがゆっくりになる。
麦茶を飲みながら、冷蔵庫に残っていた小松菜と油揚げで味噌汁を作った。
炊きたてのごはんに、焼いた鮭と、梅干しひとつ。
なるべく火を使わずに済ませるようにしているけれど、味噌汁の湯気だけは落ち着く。
食後に食器を片づけてから、洗濯をして、シャワーを浴びる。
この時期のシャワーあとはすぐに汗ばんでしまうけれど、最近は少しだけ楽しみがある。
脱衣所の棚に置いた、小さなガラス瓶。
ハッカ油のボトルだ。
タオルに数滴だけ垂らして、首まわりを軽く拭くと、ふわっとした涼しさが肌に広がる。
強すぎる刺激は避けたいから、ほんの少しだけ。
でもその「少し」が、思っていた以上に心地よい。
気分がしゃっきりするというより、熱が抜けていくような感じ。
風があるときは、肌をなでる風までもが清々しく感じられる。
日常の中のささやかな工夫だけれど、自分にはちょうど合っていた。
午後は書類の整理をしたり、郵便を出しに出かけたり。
暑い日の外出は、できるだけ日陰を選びながら歩くようになった。
玄関先でハンカチにハッカ油をほんの少しだけ含ませておくと、外でも気分が変わる。
ポケットの中で香りがふわっと広がって、暑さの中でも少しだけ呼吸がしやすくなる。
帰宅後、冷たい麦茶を飲んで一息つく。
風の向きが変わったのか、窓から入る空気が少し軽くなった気がした。
ハッカの香りが残っているハンカチを手に、窓のそばに座る。
ただ風を感じながら、何をするでもなく、体を休める時間。
エアコンも扇風機も、たしかに助かるけれど、こういうちょっとした涼しさにも支えられている。
ハッカ油は、最初は虫よけのつもりで買ったものだった。
それが今では、日々の暑さを和らげてくれる存在になっている。
夜、台所でうどんを茹でて、トマトとしそを添えて冷やしうどんにした。
食後には湯船に少しだけ浸かって、汗を流す。
お風呂あがり、またタオルにひとしずく。
今日もこれで一日が終わる。
何気ないけれど、自分にとっては欠かせない道具になった。
しばらくはこの瓶を、玄関にも脱衣所にも置いておこうと思っている。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
爽やかな香りが広がるハッカ油は、暑い日の暮らしをすっと軽くしてくれます。
首もとやハンカチにひとしずく、その涼しさが静かに一日を支えてくれます。

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