野菜をたっぷりのせて、夢中で食べる塩ラーメン

今日は朝からなんとなく食欲がなかった。
けれど昼を過ぎて、暑さがひと段落ついたころ、ふいにインスタントの塩ラーメンが食べたくなった。
あの、少し懐かしいような塩味のスープ。頭に浮かぶだけで、体がそちらに向かっていく感じがする。

せっかく作るなら、ただ麺とスープだけじゃ物足りない。
冷蔵庫を開けて、あるものをいろいろ取り出す。キャベツ、もやし、にんじん、少しだけ残っていた豚こま。
どれも炒めてしまえば立派な具になる。
ラーメンを作るというよりは、野菜炒めをラーメンにのせるという感覚で、たっぷりの野菜をフライパンで炒めはじめた。

油を敷いた鉄のフライパンがジリジリと音を立てる。
そこに豚肉を広げ、軽く塩こしょうをふって炒める。
次第に香ばしい匂いが立ちのぼってくる。
火が通ったら、ざく切りにしたキャベツともやし、細切りのにんじんを加えて、ざっくりと混ぜ合わせる。
熱気が顔にまとわりつくけれど、不思議とそれが心地いい。

別の鍋ではラーメンを茹でている。
乾麺がゆらゆらと揺れて、白く濁った湯気が立ちのぼる。
タイミングを見計らって火を止め、スープを溶かし、丼に注ぐ。
その上に野菜たっぷりの炒めものをのせたら、ラーメンというよりは“ごはん”のような存在感がある一杯ができあがった。

食卓に運び、湯気が落ち着くのを待って一口。
スープの塩気と炒めた野菜の甘みが絡んで、箸が止まらない。
しっかりした味なのに、後味は重くない。
暑い日でも、なぜか体が欲していたのは、こういうものだったのかもしれない。

どんどん食べ進めるうちに、額から汗がにじんできた。
扇風機は回しているけれど、火の前に立っていた時間と、熱々のスープとが合わさって、体が芯から熱を帯びていく。
それでも、止まらない。
シャキシャキのキャベツ、ほんのり焦げ目のついた豚肉、もちもちの麺。
スープをすするたび、身体が目覚めていくような感覚がある。

気がつけば、あっという間に麺が消え、スープの底に沈んだ野菜をレンゲで丁寧にすくっていた。
最後のひと口を食べ終えたあと、深く息をつく。
丼の縁に残る湯気が、まだほんのりと揺れている。
汗は首筋を伝ってTシャツの襟元にしみ込んでいた。
それでも、満足感だけが残っていた。

立ち上がって、台所の窓を大きく開ける。
生ぬるい風がカーテンを揺らしながら部屋に入ってくる。
さっきまでの熱気が、少しずつ抜けていくのがわかる。
冷たい麦茶をコップに注ぎ、一口飲んでから、椅子に腰を下ろす。

野菜を刻む時間は、どこか無心になれる。
にんじんを細く切るときの、まな板を叩く音。
キャベツの芯を外してざくざくと刻む感触。
料理というよりは、準備という言葉のほうがしっくりくるような、そんな時間。
火を使うと一気に空気が変わって、湯気とともに野菜の香りが部屋に広がっていく。

ラーメンを茹でている間、時計を見ずとも、なんとなく湯の泡の音でタイミングがわかる。
袋を開けるときの感触や、スープの粉末が丼に落ちる音まで、なぜか記憶に残っている。
ほんの数分でできあがるのに、その過程のひとつひとつが妙に丁寧に感じられた。

食後の食器を片づけながら、まだ顔が火照っているのを感じる。
麦茶を飲み干して、窓の外に目をやると、少し風が強くなっていた。
さっきまでの暑さも、いまはどこか和らいで感じる。

満腹と、うっすらと残る汗と、冷たい風。
何も特別なことはないけれど、こういう午後が、ふと心に残ったりする。
次にまたラーメンが食べたくなる日が来たときも、きっと同じように、野菜をたくさん刻んで、炒めて、汗をかきながら夢中で食べるのだろう。
そう思いながら、風に揺れるカーテンを見ていた。

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