今日は特に予定を立てずに、朝からのんびりと過ごしていた。
少し遅めの朝ごはんを食べて、部屋を片付けて、それから湯を沸かしてお茶を淹れた。
そんな静かな時間も嫌いじゃないけれど、ふと「外の空気が吸いたいな」と思った。
どこか遠くへ出かけるつもりはなかったけれど、家の近くには人の少ない川べりの広場がある。
歩いても行けるけれど、今日は原付で向かうことにした。
ごく短い距離でも、エンジンの音と風の感触があると気分が変わる。
出かける前に、台所でちょっとした準備をする。
小さなフライパンとミニバーナー、そして折りたたみのナイフ。
ナイフは最近になって使い始めたものだ。持ち手の形がやわらかくて、刃はしっかりしている。
初めて手に取ったとき、どこか懐かしい感覚があった。
食材は、あらかじめ下ごしらえしておいた野菜と、少しのウインナー。
パンも持っていくことにした。少し炙って食べるつもりだ。
原付でゆっくりと走る。
季節は夏に向かっているけれど、風はまだ涼しい。
途中で見かけた田んぼには水が張られ、空の色を映していた。
広場に着くと、やはり人の気配は少なかった。
陽の光が少しだけ傾きはじめて、空がやわらかく色づきかけている。
地面にシートを敷き、小さなバーナーに火をつける。
火の音はほとんど聞こえない。
折りたたみナイフを広げて、ウインナーの端に軽く切れ込みを入れる。
刃がスッと入っていく感触が気持ちいい。
余分な力をかける必要がないのが、このナイフのいいところだと思う。
フライパンにウインナーと野菜を入れ、ゆっくりと炒める。
少し香ばしい匂いが立ち上ってきた。
途中でパンも焼く。
バーナーの火で軽くあたためたパンは、表面がカリッとして香りが立つ。
食事はあっという間にできあがった。
外で食べるだけで、同じ材料でも格別に感じる。
あたたかいウインナーと炒め野菜を、焼いたパンに挟んで食べると、風の音や鳥の声が背景になる。
食べ終えて、片付けも簡単に済ませる。
使ったナイフの刃を拭いて、丁寧に折りたたむ。
元のかたちに戻るその瞬間が、少しだけ気持ちを引き締めてくれる。
日が傾いてきた。
空の色が少しずつ深くなって、地面の影が長く伸びる。
それでもまだ、焦るような時間ではない。
原付にまたがって、ゆっくりと家に戻る道。
風は心地よく、少しだけ肌に冷たかった。
こういう日があると、次は何をしようかという気持ちが自然に湧いてくる。
道具を使う楽しさは、手間の中にあるのかもしれない。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
手に収まる静かな道具。
この折りたたみナイフは、持ち歩くという行為そのものを心地よくしてくれます。

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