朝5時。
空はまだほんのりと青みがかった暗さの中にあった。
静かな家のなかで、目覚ましの音で目を覚ます。
ほんの少し眠いまま布団から出て、顔を洗い、歯を磨く。
窓を開けてみると、ひんやりとした朝の空気が流れ込んできた。
ふと、外でコーヒーを飲もうと思った。
今日は休みだし、少し早起きもしていた。
泊まりで出かけるほどではないけれど、朝だけの静かな外の時間がほしい気分だった。
クッカーとシングルバーナー、それにカップとコーヒーの粉を用意する。
湯をわかすだけなら、荷物もたいして多くない。
さっとバッグに詰めて、原付に積んだ。
エンジンをかけて、静かな道へと出発する。
朝5時台の街は、まだ動き始めていない。
車の通りも少なく、店も閉まっていて、人影も見えない。
原付で走っていると、空気が顔に当たって心地よい。
少し肌寒さもあるけれど、それもまた気持ちが引き締まる。
今日は行ったことのない場所へ行ってみようと決めていた。
地図で見て、静かに過ごせそうな場所をひとつ見つけていた。
キャンプ場ではないけれど、少し開けた場所があるらしい。
静かな道を原付で進んでいく。
知らない道を走ると、それだけで少し冒険のような気分になる。
空がわずかに明るくなりはじめたころ、目的地に着いた。
やはり人の気配はない。
ほんの少し風が吹いていて、葉がかすかに揺れている。
原付を止めて、荷物をおろす。
静かな場所をひとつ選んで、道具を広げた。
バッグからシングルバーナーとクッカーを取り出し、準備する。
まだほんのり眠気が残っていて、体が少しゆっくりと動く。
そんな朝も悪くない。
水をクッカーに入れて、バーナーに火をつける。
小さな音とともに、火が灯った。
朝の空気の中で、クッカーから湯気が立ちのぼっていく。
その様子を見ていると、ゆっくりと気持ちも目覚めていくようだった。
コーヒーの粉をカップに入れる。
湯がわいたら、そのまま静かに注いだ。
コーヒーの香りがふわりと立ち上がる。
それだけで、外に来てよかったと思える。
湯気とともに、コーヒーの香りが静かな空気に溶けていく。
カップを手に取り、ひと口。
まだ少し熱いコーヒーが、眠気をやわらかくほどいていく。
目の前には、ゆっくりと明るくなりつつある空と、静かな木々。
人の声も、車の音も聞こえない。
ただ風の音と鳥の声がかすかに聞こえるだけだった。
外で飲むコーヒーは、家で飲むのとは少し違った味がする。
特別なことをしているわけではないけれど、静かな場所で、手を動かして湯をわかして、香りを楽しんで。
そんな流れのなかで飲むからだろうか。
クッカーもこういうふうに静かな朝に使うと、より道具らしいよさが感じられる。
湯気が立つ様子も、バーナーの音も、なんだか心地よい。
ゆっくりとコーヒーを飲みながら、空が少しずつ明るくなるのを眺めていた。
あえて何かをするわけでもなく、ただ静かにその場にいる。
そんな時間があると、朝がずいぶん違うものになる。
飲み終えて、片づけをはじめた。
火を消して、道具を拭いて、バッグに収める。
原付に荷物を積んで、帰り道へと走り出す。
空はすっかり朝の色になっていた。
まだ街は静かだったけれど、少しずつ動き出しているような気配も感じられる。
家に帰ったら、また朝の時間がはじまる。
でも今日は、その前にひとつ静かな朝の余韻が心の中に残っていた。
クッカーで湯をわかして、外で飲むコーヒー。
それだけのことだけれど、朝の時間が少し特別なものになる。
またこういう朝を作ろう。
そんなふうに思いながら、家へと原付を走らせた。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
クッカーがひとつあると、外で湯をわかす時間がとても気軽になります。
静かな朝にコーヒーを飲むような、そんな小さな楽しみ方にもぴったりの道具です。

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