火のそばで、心を整える

少し心がざわつく日だった。
理由は明確ではない。誰かとぶつかったわけでもなく、特別な出来事があったわけでもない。ただ、なんとなく落ち着かない。

こういう日は、無理に何かを片づけようとせず、気持ちが流れるほうへ身を委ねることにしている。
今日は、その行き先として、焚き火を選んだ。

小さな焚き火台と、最低限の道具を原付に積み込んで、町の外れにある静かな場所へ向かう。
信号の少ない道を選び、風を受けながらトコトコと走る。

スピードは出さない。
それでも十分だった。いつもなら気にも留めない田んぼの色や、道端に咲く小さな草花が、なぜか今日は少し特別に思えた。
原付でゆっくりと走る時間そのものが、すでに目的の一部になっていた。

目的地は、木々に囲まれた少しだけ開けたスペース。
平日ということもあって誰もいない。
風の音と、遠くの鳥の声だけが響いている。

コンパクトな焚き火台を広げ、薪と枝を組む。
着火剤に火をつけると、やがて細く揺れる炎が立ち上がった。
そこに静かに息を吹きかけ、火が育っていくのを見守る。

焚き火を眺めていると、少しずつ気持ちの波が収まってくるのがわかる。
パチパチとはぜる音、揺れる炎、煙の匂い。
目や耳や鼻が、自然と火に引き寄せられる。

やがてクッカーを取り出し、水を入れて火にかける。
今日のごはんは、野菜とソーセージを入れたシンプルなスープと、朝に握っておいた小さなおにぎり。
具材は家で下ごしらえだけしてきた。
人参、玉ねぎ、キャベツ、それに薄切りのソーセージを手早く鍋に入れる。

火のそばにしゃがんで、スープが少しずつ温まるのを待つ。
木々の隙間から光が落ちてきて、葉の影が地面に模様をつくっていた。

やがて、くつくつと小さな泡が立ち始める。
香りがふわりと立ちのぼり、食欲を刺激してくる。
コンソメをひとかけ。味つけはそれだけでも十分だった。

一口すくって口に運ぶ。
野菜の甘さとスープの温かさが体にしみわたる。
特別なレシピではないけれど、外で食べるとこんなにもおいしく感じるものかと、あらためて思う。

おにぎりは、梅干しと昆布。
焚き火のそばで、手を温めながら、少しずつ噛みしめるようにして食べる。
火を見ながら、ただ食べるだけの時間が、こんなにも穏やかで満ちている。

食後、残り火でお湯を沸かし、持ってきた小さな茶筒からほうじ茶を入れる。
湯気と一緒に立ちのぼる香ばしい香りが、呼吸を深くしてくれるようだった。

湯呑を手に持ち、口をつける。
熱すぎず、ぬるすぎず、ちょうどいい。
体が少しだけ軽くなる感覚があった。

片付けはゆっくりと。
焚き火の火を完全に消して、灰をきれいに整え、来たときと同じようにして道具をまとめる。

帰り道、再び原付で走り出す。
行きよりも少しだけ空が広く感じた。

心のざわつきは完全に消えたわけではないけれど、何かが整った気がした。
何かを解決するのではなく、ただ静かな時間を過ごすことで、心の中に空白ができて、そこに余裕が生まれるような。

焚き火と、簡単な食事と、少しだけ遠くに出かけた時間。
それだけのことで、また今日を過ごせそうな気がしている。

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ゆっくりと火を眺める時間を、そっと取り入れてくれます。

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