目が覚めた瞬間、お腹が鳴っていた。
ちょっと小腹がすいた、なんてものじゃなくて、
体の奥の方から湧いてくるような、強い空腹感だった。
昨夜は、簡単なもので済ませてしまった。
作る気力が出なくて、軽く食べて、そのまま早くに眠った。
たぶん疲れていたのだと思う。
そのせいか、ぐっすり眠れて、朝はすっきりと目覚めた。
体も軽く、何より、お腹が無償に空いている。
窓を開けると、朝の風が涼しい。
もう5月の終わりだけれど、まだ少しだけ冷たい風が残っている。
でも、昼には暑くなりそうな気配もある。
今日はちゃんと、ごはんを作って、食べたい。
そんな気分だった。
冷蔵庫をのぞくと、新じゃが、ズッキーニ、ミニトマト、青さ、
それに、昨日買っておいた鶏むね肉がある。
この季節の台所は、少し華やかだ。
まずは、お米を研いで、土鍋にセットする。
静かな朝の時間に、米を研ぐ音が、心地よく響く。
水加減を整えて、少しだけ塩を入れる。
火にかけて、炊き上がりを待つ間に、味噌汁の準備をする。
今日は、青さの味噌汁。
だしをとり、豆腐と油揚げを入れて温める。
青さは最後にふわっと加えて、香りを閉じ込めるように仕上げたい。
味噌はこして丁寧に溶く。
ざっと溶かすだけでもいいけれど、
丁寧に溶いた方が、青さの香りがふわっと広がる気がする。
味噌汁を火から下ろし、少し落ち着かせる。
熱が和らいだところで、木のお椀に静かに注ぐ。
手に持つと、木の感触が少しだけ温かく伝わってくる。
青さの緑と、木目のやさしい色がよく合って、
味噌汁の香りが、ふわりと鼻先をかすめる。
こういう朝には、陶器よりも木の器が似合う。
主菜には、鶏むね肉と新じゃがの塩こうじ焼きを。
前の日に塩こうじに漬けておいた鶏肉を、そぎ切りにして、
皮ごと蒸した新じゃがと一緒に、フライパンで焼いていく。
焼き目がつくと、こうじの香ばしい匂いが立ち上って、
食欲がさらに刺激される。
新じゃがの皮がほくっとしていて、ほんのり甘い。
副菜には、ズッキーニとミニトマトのマリネ。
軽く焼いたズッキーニと、湯むきしたミニトマトを、
オリーブオイルと酢、塩だけで和える。
さっぱりしていて、箸休めにちょうどいい。
もうひと品、ピーマンとじゃこの炒めものを作る。
細切りにしたピーマンを、ちりめんじゃこと炒めて、
醤油と酒でさっと味をつけるだけ。
簡単だけど、ごはんが進むおかず。
炊きたての白ごはんをよそって、
すべての料理を器に盛りつける。
湯気の立つ味噌汁、焼き色のついた鶏肉とじゃがいも、
冷たく仕上げたマリネ、そしてピーマンの炒めもの。
テーブルに並べると、
ひとつひとつの色がやわらかく朝の光に照らされている。
窓の外はもう明るい。
風は静かで、ラジオからは懐かしいような音楽が流れてくる。
聞いたことはないのに、どこか懐かしく感じる。
味噌汁をひと口飲んで、
焼いた鶏肉に箸を伸ばす。
お腹が空いていたせいか、どれもひときわおいしい。
食べているうちに、
「ちゃんと食べるって、大事だな」と思う。
空腹が満たされていく感覚が、
体だけじゃなく、気持ちまでも整えてくれる。
いつもこんなふうに、とはいかないけれど、
こういう日があるだけで、またがんばれそうな気がした。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
手に持つと、ほっとするような温もりがあります。
味噌汁が少しだけおいしく感じられる器です。

コメントを残す