午前中はすこし晴れていたけれど、昼過ぎから空がぼんやりしてきた。
日差しは強くないのに、空気の中に湿気が混じっている。
窓を開けていると、風が入ってくるたびにカーテンがふわりと揺れる。
初夏の午後。なんとなく、体を動かしたくなるほどの元気はないけれど、何かをしておきたい気分。
こういうときに、煮ものを仕込んでおくのがちょうどいい。
夕飯の支度を早めに始めておけば、夜がゆっくり過ごせる。
でも火を使って台所に立つには、少し湿気が気になりすぎる。
コンパクト電気圧力鍋を、引き出しから取り出す。
ひとり分でも、しっかり食べたいときに使いやすい道具。
重さはそこそこあるけれど、出してしまえばあとは勝手に働いてくれる。
今日は、鶏もも肉とじゃがいも、それに玉ねぎをたっぷり入れて、甘辛く煮ることにする。
煮汁を含んだ玉ねぎはとろとろに、じゃがいもはほくっと、鶏肉はしっとり仕上がる。
炊きたてのご飯に合う、しっかりしたおかず。
鶏もも肉は、大きめのひと口大に切る。
皮はそのまま。焼きつけたりはしない。圧力鍋に入れてしまえば、自然と柔らかくなる。
じゃがいもは皮をむいて、厚めの半月に。
玉ねぎは、大きめのくし形にして、加熱後にくたっと崩れるくらいを目指す。
内釜に材料を並べて、酒、みりん、しょうゆ、水を加える。
分量はきっちり測らなくても、味を見ながら調整すればいい。
出汁は顆粒のほんの少し。あとは圧力が勝手に旨味を引き出してくれる。
材料が重ならないようにざっくり混ぜたら、蓋を閉じる。
モードを選んで、スイッチを押す。それだけ。
音はほとんどしない。
しゅうしゅうと蒸気が抜けるような圧力鍋のイメージはなくて、静かな調理が始まる。
少しだけ機械音のようなものが鳴るけれど、すぐに部屋に溶けていく。
テーブルの上に本を開き、麦茶を注いで、しばらくそのまま過ごす。
何もしないことをしている、そんな時間。
20分ほどして、香りがふわっと届いてくる。
最初に感じるのは、しょうゆの香ばしさ。
次に鶏肉と出汁のにじんだ香り。
部屋の中が、夕方の気配を先取りしたような、安心する空気に変わっていく。
圧力が抜けるまで、しばらく待つ。
急がずに待てるということが、こういう道具のよさでもある。
台所に立って火加減を見ていたら、こうはならない。
ピンが下がるのを確認してから、蓋をそっと開ける。
湯気がふわっと立ち上がり、顔に当たると、すこしだけ汗ばむ。
でもその感覚も嫌じゃない。
中を見れば、玉ねぎはとろとろに崩れていて、じゃがいもは形を残しつつも箸がすっと通るやわらかさ。
鶏肉も、箸で簡単に裂けるくらいに仕上がっていた。
器に盛りつけて、食卓へ運ぶ。
今日は炊きたての白ご飯と、冷たいお茶だけ。
他には何もいらない。
最初に玉ねぎをひと口。
噛むというより、舌の上でほぐれる。
出汁としょうゆの味がじんわり広がって、玉ねぎの甘さと合わさって、少しだけ目を閉じたくなるような味。
次にじゃがいも。
やわらかいけれど、煮崩れはしていない。
口に入れると、ほくっとして、煮汁の味がゆっくり染み出してくる。
そして鶏肉。
皮はとろりとやわらかく、身はふんわりとほぐれる。
火を見ていなかったとは思えないくらい、丁寧に煮込んだような味がする。
どのひと口も、食べるたびに体が落ち着いていく。
窓の外では、風がゆっくりと動いている。
蒸し暑さはあるけれど、食後にはそれも少し和らいで感じられる。
食べ終えて、器を下げ、鍋の残りは保存容器に分けて冷蔵庫へ。
翌日もまた食べられると思うと、それだけで少し気が軽くなる。
コンパクトな電気圧力鍋は、見た目は静かで、控えめな存在。
だけど、こうして使ってみると、思っている以上に暮らしの流れに寄り添ってくれる。
火を使いたくない日、長く台所に立ちたくない日、でもちゃんとしたものを食べたい日。
そういう日が、確かにある。
ただ材料を入れてスイッチを押すだけなのに、「ちゃんと作った」と思える仕上がりになる。
そんな道具がひとつあるだけで、料理に対しての気持ちが少しだけ変わる。
めんどうだからやめておこう、という日も、この鍋があればやってみようと思える。
湯気と香りと、やわらかさ。
今日の午後が、それで満たされた。
▼しずかな時間に馴染むもの▼
コンパクト電気圧力鍋
火を使わず、台所に立ち続けなくても、ちゃんとした料理がつくれる。
調理中も音が静かで、暑い日や疲れた日にも助かる存在です。

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