朝の空はうっすらと曇っていたけれど、昼に向けて少しずつ明るくなってきた。
今日は静かに過ごせそうな日だった。
家にこもるのも悪くないけれど、ふと思い立った。
お弁当を作って、行ったことのない公園に行ってみようか。
近くに気になっていた場所がある。自転車で行けばちょうどよい距離だ。
それなら、久しぶりに曲げわっぱの弁当箱を使おう。
木の手ざわりが気持ちよくて、詰めるときにも自然と気持ちが整う。
いつもの昼ごはんも、少し特別なものになる。
台所に立ち、まずはごはんを研いで炊き始めた。
炊き上がるまでに、おかずを用意していく。
今日は季節の野菜をたっぷり使ったお弁当にしよう。
それに鶏の照り焼きをメインに加えて、食べごたえのあるものに仕上げたい。
鶏もも肉に軽く塩をして、下味をつける。
皮目をパリッと焼き、甘辛いタレを絡めて照りよく仕上げた。
照り焼きの香りが台所にふわっと広がる。
冷めてもおいしいので、お弁当にぴったりだ。
卵焼きも焼いた。
甘さ控えめで、だしの香りがほんのり漂う仕上がりに。
にんじんは細切りにしてラぺにする。
レモン汁とオリーブオイルでさっぱりと。
彩りもきれいで、箸休めにもなる。
ズッキーニとパプリカはグリルして塩をふるだけのシンプルな味付け。
焼き色がついた野菜は、木の弁当箱にもよく映える。
小松菜はさっと茹でて、胡麻と醤油で和えた。
緑が加わると、弁当箱全体が引き締まる。
ごはんが炊きあがった。
しっかり蒸らして、少し冷ましてから詰める。
曲げわっぱの弁当箱に、ごはん、鶏の照り焼き、卵焼き、焼き野菜、ラぺ、小松菜のおひたしを丁寧に詰めていく。
詰めている時間そのものが、どこか穏やかで心地よい。
配置を考えながら整えていくと、自然と気持ちまで整っていく。
蓋を閉じて、包みにくるみ、保冷バッグに入れた。
飲みものも一緒に用意して、自転車に積む。
さて、出かけよう。
今日は少し冒険気分で、行ったことのない公園を目指す。
家を出て、自転車でゆっくりと走り出した。
初夏の空気はやわらかく、風が気持ちよい。
知らない道を通ると、それだけで新鮮な気分になる。
見慣れない街並みや、ふと目に留まる花。
ゆっくり進むうちに、気持ちも自然とゆるんでいく。
しばらく走って、公園に着いた。
思ったよりも広く、緑が多い場所だった。
平日だからか、人も少なく、静かな雰囲気が漂っている。
奥の方に木陰のテーブル付きベンチを見つけた。
ちょうどいい場所だ。
自転車を止めて、荷物をおろす。
ベンチに腰を下ろし、包みをほどく。
木の蓋を開けると、ほんのり木の香りがふわりと漂った。
色とりどりのおかずが詰まった木の弁当箱が目の前にあるだけで、なんだかうれしくなる。
まずはごはんをひと口。
ほんのり木の香りが移って、やさしい甘みが感じられる。
鶏の照り焼きは、しっとりとした仕上がりで、甘辛いタレがごはんによく合う。
外で食べると、香りまでいっそうおいしく感じる。
焼き野菜は冷めても風味がよく、彩りも鮮やかだ。
ラぺのさっぱりとした酸味が箸休めになり、卵焼きのだしの香りが口の中にふんわりと広がる。
青菜のおひたしの香ばしい胡麻の風味も心地よい。
それぞれの味わいをゆっくりと楽しみながら、自然のなかで静かに過ごす昼の時間。
時折、風が葉を揺らす音だけが聞こえている。
人の声は遠くにかすかに聞こえる程度で、ベンチの周りは穏やかだった。
こういう場所で食べると、日常の食事も少し特別なものに感じられる。
弁当箱を詰めるときの時間も、持って出かける道中も、こうして食べている時間も、すべてがゆったりとした流れになっている。
食べ終えて、温かいお茶を飲みながら、もうしばらくその場で静かに過ごす。
公園の緑は濃く、初夏の空気は心地よかった。
また季節が進んだら、違う野菜で詰めて出かけてみよう。
曲げわっぱの弁当箱は、そういう楽しみを自然と増やしてくれる。
帰り道は、少し違う道を選んでみた。
そんな小さな寄り道もまた楽しい。
昼の光のなかを、自転車でゆっくりと帰った。
木の弁当箱に詰めたごはんは、外で食べるとまたひと味違う。
こういう時間があると、また次のお弁当も楽しみになる。
暮らしのなかの小さな楽しみが、今日もひとつ増えた気がした。
▼しずかな時間に馴染むもの▼

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